サブカテゴリ:シェリーを造る人サンルーカルの力瘤

ちょっと猫背で、がっちりした背中。鋭い眼光。マリアノ・ガランはお腹の裏から絞り出すような大きなガラガラ声で、一言一言、怒鳴るがごとく、力強く話す。「ここのワインを造るのは時間と樽だ!」
マリアノはサンルーカルの町の中心広場から少し入ったところにあるボデガ、「エレデロス・デ・アルグエソ」の技術責任者だ。ボデガに入ったのは1969年、17歳のときだった。7年間は見習いとして働いた。「学ぶのには時間がかかる」という。父親も同じボデガで働いていたから、父親が師匠だった。今は息子も同じボデガで働いている。同僚には、同じように何代にもわたってこのボデガで働いている一家がいるそうだ。「息子は大学を出てからボデガに入ったから、24歳で、今見習い中だけどね。」
「エレデロス・デ・アルグエソ」では、ワインも人も、彼に見守られて育っている。
大西洋に流れ込むグアダルキビール川の河口にあるサンルーカルでは、ポニエンテという、温度が低く、湿度の高い海風が吹いてくるので、内陸のヘレスやエル・プエルトとは異なる局地気候が形成される。これがワインの表面に自然に発生するフロールという酵母の膜の生育にとって良い条件を保ってくれる。そのためヘレスのフィノと同じ造り方をするワインがサンルーカルで熟成された場合だけ、少し違った風味に仕上がるので、独自の原産地呼称マンサニーリャ=サンルーカル・デ・バラメダを持っている。
マンサニーリャはフロールと共に生きている。マリアノは懐中電灯を持ってきて「どうだ、フロールが見えるだろう」と一番下の段の700リットル入りの大きな樽の栓を開けてくれた。のぞくと、樽の中のワインの表面には、まっ白な、できたてのふかふかのおからのような感じのフロールが膜になってずっと広がっていた。フロールがいい状態で心地よく生育しているかどうか、彼は日々、様子を見にまわっている。
平均6年熟成のマンサニーリャ「サン・レオン・クラシコ」は12段の樽で構成されるクリアデラとソレラのシステムで熟成される。平均3年半熟成のマンサニーリャ、「フィナ」は18段ある。若く出荷するワインほど段数が多いのだそうだ。若いワインの方が出荷量も出荷頻度も多いから、1回の出荷に際する仕事量は膨大なものになるだろう。樽は3段までしか積まないから、クラシコの場合は4つのブロックに、フィナの場合は6つのブロックに分けて貯蔵される。ワインの表面に浮かんでいるフロールを傷つけないように入れ替えるのは大変な作業だ。「昔は全部手作業でやったものだ」という。
マリアノが力強いガラガラ声で「ワインは時間と樽が造るんだ!」と繰り返した。確かに時間と樽が必要ではあるが、それを見守り、維持している人の力がなければ良いワインは育たない。一見怖そうなマリアノだが、ワインを見る眼はとても優しい。

<あけひよしこ>


